もとは、息子のためにパパが開発したプログラミング環境
「これからの時代は、パソコンを使いこなせてあたり前!」
「パソコンは買ってあげるけど、ゲーム専用機とスマフォはダメ!」
という教育方針だった。その代わり息子には中古のノートパソコンをプレゼント。スクラッチでプログラミングができることを教えた後は、ほとんど本人に任せて放任。
それから何年かした、ある日曜日・・・
「プログラミングでマインクラフトのスゴイ建築をしている人がいる。僕もやりたい。」
息子がそうに言って、とあるYouTube動画を見ろと言ってきた。英語の動画で、どうやらパイソンというプログラミング言語を使ったらしい。色々と調べて、すぐに同じ環境を作ってやってみた。うん、確かに面白い!
このとき、マインクラフトは単なるゲームではないことが直ぐわかった。ゲームではあるが、例外として認めることにした。しかし、問題はプログラミング言語の方だ。息子はスクラッチしか知らない。当時、小学4年生だった息子には、パイソンは難しい。実際、試しに教えてはみたが、すぐに諦めた。
「スクラッチでできないか、パパ、ちょっと調べてみるよ。」
それが開発のきっかけだった。
とは言ったものの難しい。
スクラッチはブラウザ上で動くWebアプリ。マインクラフトはPCにインストールして使うゲームアプリ。2つは全く関係のない別々のソフトだ。この2つを繋げるには、いったい何をどうしたらよいのか・・・。しかしパイソンでは実現されているのだから、きっと何か仕組みがあるのだろう・・・。
元ITエンジニアの開発者魂に火が着いた。
それからさらに数カ月が経過し、ついに完成した。マインクラフトをスクラッチでプログラミングできる夢の環境。当時はまだ試作レベルだったが、趣味で楽しむには十分だった。
これ、絶対に生徒たちもやるべき!
我ながら凄いものを作ったと思った。
まずコンピューターの威力を知ること(本当は大人も)
YouTuberたちがドヤ顔で披露するマインクラフトの建築や創作。そんな凄いことを自分でもやってみたい。子供たちの夢とは、そういった純粋な物。そして、その夢がプログラミングなら一瞬で実現できてしまうとしたら・・・
コンピューターの威力を実体験するには十分な環境だと思った。
コンピューターを紙や鉛筆のように使いこなせるようになって欲しい。いや、ならなくてはダメだ。その第1歩を踏み出してもらうには、とにかくコンピューターの威力を知ってもらうことだ。
そう考え、さっそくテキストを作った。しかし最初に作ったテキストは、ちょっとハイレベルな内容になってしまった。そこで中学生と高校生に声をかけ、中学生2名、高校生1名が参加してくれた。
結果は上々だった。
ただ、小学生には難しい。もとIT技術者の経験が裏目に出て、テキストに盛り込み過ぎてしまう。
テキストの体系を3コースに整備
そこで、テキストの再編を行うことにした。プログラミング教室で小学生を30名以上指導している先生に入っていただいた。何度も議論を重ねていくうちに、ジュニアコース、ミドルコース、ハイコースの体系がまとまっていった。
各コースそれぞれ半年分くらいのコンテンツを完成させた頃から、試験的に有志の教室でプログラミング教室を開校した。
車で30分かけて通う
「マインクラフト」
後でわかったことだが、このキーワードがチラシに載ったのが良かったらしい。問い合わせ率がグンと上がった。
さらに意外だったのは、学区外からの問い合わせも多くなったこと。それどころか、ありえない距離からも問い合わせが来るようになった。個別指導の学習塾は、近さと通いやすさが重要。3Km以上離れたら、まず問合せない。
しかし、このプログラミング教室は、8~9Km離れたところから車で30分かけて通っていただける。こうした経験が今まで無かったわけではない。既存の生徒が少し遠くに引っ越してしまい、その後も車で30分かけて通い続けてくれた。そういうことなら何度かあった。しかし新規のお問合せで、というのは初めてのことだった。
今どき珍しい、1回のチラシで10件以上の問合せ
3コースのテキストが概ね完成したのを機に、本格的な集客を開始。
運の良いことに、たまたま名古屋PTA新聞からお声がけをいただいた。ちょうどプログラミング教育必須化の特集をするから、それと連動して広告枠をいただけることになったのだ。
教育改革には、民間の力も積極的に活用していく方針が盛り込まれていた。プログラミング教育の推進においても、少なからず期待されているのだと実感し、とても嬉しくなった。
せっかくのチャンスを最大限に活かすべく、4校舎で合同掲載。その結果、どの校舎も10件を超える問合せ。しかも、そこから半分以上が入会につながった。
プログラミング教室用にと、教室の一角をレイアウト調整して用意していたパソコン2台分の座席。それがすぐに定員いっぱいになって。
パソコンを持ち込まれる生徒が3割ほどいることが分かってきた。そこで、パソコンは1台だけ追加し、4座席+パソコン3台という構成で教室のレイアウトを更に調整することにした。
テキストに盛り込んだ「未来へのカギ」
実は、テキストの編集過程でかなり議論したことがあった。
学習塾としてやる以上は、国の進める「教育改革の方針」をちゃんと汲み取ることが必須。中でも、子供たちの「主体性」を最も重視してテキストを編成したいと考えた。問題は、それを具体的に、どう盛り込むか。
教育改革の重要方針の中で
- 最適解を生み出すチャレンジする
- 情報や知識を問題解決に活用する
という解釈を重視することにした。もっと簡単に言えば、
「答えが1つに決まらない問題の解決に取り組む」
というもの。目的はあるが、模範解答というものが無い、あるいは誰にも分らない。そういう問題に立ち向かい、試行錯誤を経て「最適解」を答えとして出す。
そして試行錯誤の過程で、できる限りの知識や情報を活用する。もちろん学校で習ってきた算数、国語、理科、社会、美術や音楽などの知識をも、どんどん活用する(※1)。まさに「情報を編集する」という能力を鍛える教育だ。
ちなみに、こうした取り組みは、ロボットや人工知能が苦手なことだとされている(※2)。
コンピューターを道具として使い、コンピューターと共存し、人間らしい取り組みを行えるように子供たちを育む。
こうした教育改革の意図を正確に盛り込んで、本当のプログラミング教育をするぞ!
そういう議論を重ねて編集を進めた。
学習塾でやるからには・・・
それから、あと1つ。算数、国語、理科、社会、美術や音楽などの知識を活用する件について。
学習塾なら、このことは、ぜひとも子供たちに教えたい。そして、それにこだわりたい。
「学校で習う知識を使う」
いや、むしろ、コンピューターでこれが加速されることを体験してもらいたい。そういう想いさえ強くなった。学習塾としてやるからこそ、習ったことを活用できる知恵を伝えたい。
テキストは、それらが伝わるように、そういう教育になるようにも、気を付けた。
実際、教室では小学1年生がマイナスの数を理解し、空間ベクトルの概念も理解しているケースさえ出て来た。
体験会では、お子様の知られざる能力を見る事ができたと、保護者様から喜ばれることも多くなった。
逆に、こうしたこだわりが無いのであれば、他のプログラミング教室で良かったはずだ。わざわざゼロから作るのだから、ここはこだわるべきだと思った。
補足
(※1)学校で習った知識の活用が必須
一昔前までは「学校の勉強」と「生活の知恵」や「仕事の知識」は別でも良かった。学校の勉強は、大学進学の道具と割り切っても許されたかもしれない。しかし今後はちがう。学校の基礎知識や大学の高騰知識をどんどん活用できることの方が、むしろ必須になっていく。そしてコンピューターの活用で、それが当たり前になっていくのである。
すでに日本の私たちは、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)をはじめとした外国企業の脅威を目の当たりにしている。彼らは、数学や自然科学を積極的に活用し、業務や社会の在り方を革新的に変えてしまった。今や、日本の情報や物の流通から出た利益は、どんどん海外に吸収されっぱなしである。日本人が「大学の勉強は仕事に役立たない」と言っている間に、彼らは大学の研究室レベルの知識さえ実務に役立たせてきた。その蓄積の違いが、そのまま国力の差になっている。
(※2)人工知能にできないこと
模範解答を出す。1つに決まる答えを出す。
答えが1つに決まっているので、いかに「速く」「正確に」解けるかで優劣がつく。その考え方で学校教育は行われてきた。そのため「解答」と「解法」の対応をたくさん頭に詰め込むという、いわゆる「暗記の詰込み」教育が主流となり、その優劣が偏差値で示された。
しかし、この種の能力は、もともとロボットや人工知能が得意とする分野だ。だから、これまでの教育で人材を育成しても、そういう人たちはロボットや人工知能に役割を奪われてしまう。
だから、これからは「ロボットや人工知能が不得意なことをできるようにしよう」という教育が主流になる。
それが「答えが1つに決まっていない問題」や「誰も正解が分からないような問題」にチャレンジする事である。
知識はコンピューターで調べればよい。計算もコンピューターが速くできる。思ったことの多くはコンピューターで実現できるようになった。だとすれば、人間のやることは、それらを使いこなし、情報を編集して「最適解」を編み出すことである。
これまで「地頭力」などと呼ばれ、生まれつきの才能として教育現場の外にあった能力。今後はそれを人間らしい能力として教育体系に取り込む必要が出て来た。
プログラミング教育の導入は、その手段の1つなのである!